海外FXの所得は確定申告の対象?
海外FX初心者のお役立ち情報
会社員の方には馴染みが薄いかもしれませんが、自営業者や個人事業主などの方々は毎年2月から3月にかけて「確定申告」という手続きを行っています。確定申告とは、前年の1月から12月までの収入と支出を税務署に申告し、所得税を納める手続きのことです。海外FX取引をする場合も、海外FXで得た収入が一定の基準を超えると確定申告を行い、所得税を納めなければなりません。「税制が複雑でよく分からないから確定申告はせずに、税務署に指摘されてから納税すればいいや」と安易に考えるのは危険です。税務署に悪質な所得隠しだと判断されると、無申告加算税や重加算税などを追加で納めなければならない上、刑事罰を課される可能性もあります。海外FXと国内FXのどちらであっても、FX取引をするのであれば税制についてしっかりと把握してきちんと納税しなければなりません。
FXの税金の仕組み
日本では海外FX・国内FXを問わず、FXで一定金額を超える利益を得た場合には、所得税と住民税、さらに復興特別所得税が課せられます。しかし、その課税の仕組みや税率は国内FXと海外FXとで異なります。まず課税の仕組みですが、海外FXでは給与所得やFX以外の副業などあらゆる所得を合算して課税金額を計算する「総合課税制度」を採用し、一方の国内FXは給与所得などと合算せずに国内FXの損益だけで課税金額を計算する「申告分離課税制度」を採用しています。
ここで仮に、会社からの給与所得が500万円、副業として行っているFXの利益が200万円だった会社員のケースを用いて、海外FXと国内FXにおける課税の仕組みの違いを見てみましょう。
(1)海外FXで200万円の利益を得た場合
500万円+200万円=700万円となり、課税対象額は700万円です。
(2)国内FXで200万円の利益を得た場合
500万円は課税対象から除外され、課税対象額は200万円です。
税率については後述します。
海外FXの税金は支払う義務あり?
日本に居住しているのであれば、たとえ海外FX業者で利益を得たとしても日本の税制に従って納税しなければなりません。日本は「全世界所得課税方式」という税制を採用しており、日本の居住者は日本で得た所得だけでなく海外で得た所得に対しても課税する仕組みだからです。日本を含めた多くの国はこの全世界所得課税方式を採用していますが、シンガポールなどの一部の国は、その国の居住者がその国で得た所得にのみ課税する「国内源泉所得課税方式」を導入しています。日本国外に居住している人であれば、日本の税制ではなくその居住地が定める税制に従って納税をする必要があります。
海外FXと国内FXの税制の違い
先ほど海外FXと国内FXにおける課税の仕組みに触れましたが、税制における最大の違いは課税率です。国内FXでは、利益の多寡に関係なく課税率は約20%と一律であるのに対して海外FXでは、利益額の大きさに応じて15%から最大55%までの累進課税となっています。その具体的な課税率は以下のようになっています。
◆国内FXにおける課税率
利益 | 課税率 | 控除額 |
---|---|---|
一律 | 20.315%(所得税15%+住民税5%+復興特別所得税0.315%) | なし |
◆海外FXにおける課税率
利益 | 課税率 | 控除額 |
---|---|---|
~195万円 | 15%(所得税5%+住民税10%) | 0円 |
195万円~330万円 | 20%(所得税10%+住民税10%) | 97,500円 |
330万円~695万円 | 30%(所得税20%+住民税10%) | 427,500円 |
695万円~900万円 | 33%(所得税23%+住民税10%) | 636,000円 |
900万円~1,800万円 | 43%(所得税33%+住民税10%) | 1,536,000円 |
1,800万円~4,000万円 | 50%(所得税40%+住民税10%) | 2,796,000円 |
4,000万円~ | 55%(所得税45%+住民税10%) | 4,796,000円 |
※実際に納税する際には、上記に加えて復興特別所得税2.1%が加算されます。
こうして見ると、海外FXは利益を上げれば上げるほど税率も高くなることが分かります。
確定申告の基準とは?
海外FXと国内FXのどちらも、確定申告が必要になる年間の利益基準額が定められています。その基準額を超えると確定申告を行わなければなりませんが、損失を出したり基準額以下の利益しか得られなかったりした場合は、確定申告は不要です。その基準となる金額は、会社員(給与所得者)では年間20万1円以上、自営業者やフリーランスといった会社員ではない人(給与所得者以外)では年間38万1円以上となっています。
確定申告する必要がない場合もある?!
一方で、海外FXや国内FXでの年間の利益が20万円未満の会社員(給与所得者)と、38万円未満の自営業者や個人事業主(給与所得者以外)は、確定申告をする必要はありません。ただ、国内FXには繰越控除制度という海外FXにはない仕組みがあります。この制度は損失分を確定申告すれば、その年から3年間は損失を繰り越して翌年に生まれた利益と相殺することができるというものです。詳細はこの後の「海外FXは損失の繰り越しができない」の項目に記載しています。
確定申告の仕方
確定申告を行う方法はいくつかあります。もっとも簡単なのが、国税庁のホームページから確定申告に必要な申請書を記入・作成し、その申請書を管轄する税務署に提出するという方法です。国税庁のホームページに申請方法が詳しく記載されていますので、参考にしながら確定申告の期間中に提出するようにしましょう。
確定申告に必要な各種書類
確定申告に必要な書類は以下のものです。
(1)本人確認書類
マイナンバーカードを発行されているのであれば、マイナンバーカードで十分です。カードがない場合は、マイナンバー通知カードや住民票と本人と確認できる免許証やパスポート
(2)印鑑
シャチハタではない、朱肉を使うタイプの印鑑
(3)申告書
国税庁のホームページで作成した申請書
(4)口座番号が分かる書類
銀行口座やゆうちょ銀行の口座番号が書かれた書類。通帳の写しなど
(5)所得を証明できる書類
FXの取引履歴などが分かる年間損益報告書や期間損益報告書。(MetaTraer4やMetaTrader5、公式HPからダウンロードできるケースが多いので、その場合は印刷してそのまま利用できます。)
どれも確定申告が始まる前にあらかじめ用意しておきましょう。
海外FXの税金計算方法
海外FXと国内FX問わず、FX取引をする上で必要な物品の購入費やセミナーへの参加費などは経費として認められることが多いです。FXでは所得から経費を差し引いた金額をベースに課税金額を計算するので、経費が多くなればその分課税金額は少なくなります。経費として認められる項目としては、
・FXで使用するパソコンとその周辺機器
・レンタルサーバー代
・FX関連の書籍代
・関連セミナーへの参加費
・セミナーに参加するための交通費や宿泊費
といったものがあります。しかし、直接FX取引だけのために支出したものである必要がありますので、細かな基準については管轄の税務当局に確認しましょう。
例えば、ある年におけるFXの利益が350万円で、書籍代が20万円、セミナー参加費が15万円、交通費が5万円、レンタルサーバー代が20万円だったとします。経費を計上しなければ、350万円の利益がそのまま所得となり、課税額は30%になります。対照的に書籍代などの経費、合計60万円が認められれば、課税対象額は350万円−60万円=290万円になるので、課税率は20%となります。経費を計上することで課税対象所得を60万円も減らせたことになりますが、領収証が必要ですので確定申告を終えるまで大切に保管しておきましょう。
海外FXは損失の繰り越しができない
損失の繰り越しとは、損失が発生した年に確定申告をしておけば、その年から3年間は翌年に得た利益額と損失額を相殺することができる制度です。例えば、国内FXを始めた1年目の年間損益がマイナス100万円で、2年目の年間損益はプラス40万円だったとします。この場合、損失が発生した1年目に確定申告をしておけば、2年目の確定申告では1年目のマイナス100万円と2年目のプラス40万円を相殺できるので、2年目の課税対象額はマイナス60万円ということになり、課税されません。
しかし、この損失の繰り越しは、国内FXにだけ認められた措置で、海外FXでは認められていません。さらに年間損益が海外FXでマイナスになり国内FXでプラスとなったとしても、この場合は海外FXと国内FXの課税の仕組みが異なるため、マイナスとプラスを相殺できません。ただ、複数の海外FX業者の損益は通算することができます。
確定申告しなかった場合はペナルティが課せられる?
100万円を超える金額が海外FX業者から日本の銀行口座に送金されると、日本の銀行は国税庁に対して海外からの着金があった旨を報告することが義務付けられています。国税庁はその記録から海外FXで得たお金の流れを把握できるため、仮に確定申告をしなかった場合、国税庁は容易にその人物を特定できるでしょう。冒頭でも触れたように、税制が分からないからという理由で確定申告をせずに放置することは許されません。では、その場合はどのようなペナルティが課せられるのでしょうか。
無申告加算税や延滞税が発生
納税は国民の義務であることから、脱税行為は経済的なペナルティを課されるだけでなく、懲役刑などの刑事罰を受けることもあります。一般的には、税務署の指摘や調査を受けたのちに、未納分の税金を支払った上で、無申告加算税として15~20%を余分に納税し、さらに重加算税が課された場合では、本来の納税額の40%を追加で納めなくてはなりません。こうしたケースでは、海外FXで得た所得をすべて充てても支払いきれずに、借金を背負うことになりかねません。
改ざんや虚偽の場合は刑事罰を受ける可能性も!
さらに、未納金額が巨額だったり意図的に脱税をしたりして、税務署が悪質性が高いと判断すると逮捕されて身柄を拘束されることもありますし、裁判の結果、懲役刑を課される可能性もあります。社会的にも大きなダメージを負うことになりますので、海外FXや国内FXで取引をする以上、日本の税制についてしっかりと把握し、確定申告の対象者ならばきちん確定申告を行いましょう。
まとめ
FX取引をするならば、確定申告は避けて通れません。確定申告の必要がない年間の利益額で細々とFXを続けることもできますが、税金を納めたくないからといって大きな利益を得るチャンスをみすみす見送るのは本末転倒でしょう。だからといって、海外FXから銀行口座への送金額を100万円以下に抑えて、複数回に分けて出金すれば国税庁にお金の動きを捕捉されないのでは、などと考えるのも浅はかです。国税庁の調査能力は世界的にも高いレベルにあると言われています。脱税は明らかになった際の代償が大きいので、脱税やそれに類する行為はかならず突き止められます。今回の記事を参考にしながら、日本の税制について学んで2月からの確定申告に備えましょう。